手順書に準じて分析を行った.
96 穴マイクロプレート(FALCON,♯353072)を用い,プレート リーダー(DTX880 型,ベックマン・コールター)にて測定を行っ た.
3. 結果及び考察 3.1 H-ORAC 法による分析
3.1.1 分析結果の解析
各試料の測定値の解析結果を Table 1 に示した.
Table 1 H-ORAC 法による測定値の解析結果
フェルラ酸については,25 回の測定で 70 点の測定値を得た.
得られた測定値を解析した結果,平均値 17,238μmol TE/L,標準 偏差 489μmol TE/L,変動係数 2.8%であった.室間試験の結果と 比較しても,精度良く再現性の高い分析が実施できていること
がわかった.
Fig.1 フェルラ酸の分析結果
また,全ての測定値が,手順書による真度(フェルラ酸の室 間試験での平均値±室間再現標準偏差の 2 倍:17,552±1,864
μmol TE/L)および精度(Z スコア<2:Z=|フェルラ酸の測定 値-フェルラ酸の測定値の平均値|÷757(室間試験での中間標 準偏差))を満たしており,分析の信頼性も充分であると考え られる.(Fig.1)
カフェ酸については,12 回の測定で 50 点の測定値を得た.解 析の結果,平均値 31,645μmol TE/L,標準偏差 684μmol TE/L,変 動係数 2.2%であり,フェルラ酸同様,精度良く再現性の高い 分析が実施できていた.室間試験の結果を利用して真度と精度 を計算してみたところ,精度について 1 点のみ Z スコアが 2 以 上となったが,真度に関しては全ての測定値が適正な範囲内に あったことから,分析操作時に偶然発生した軽微なエラーが原 因ではないかと考えられる.分析の信頼性については,全く問 題ないと考えている.(Fig.2)
Fig.2 カフェ酸の分析結果
ヘスペレチンについては,18 回の測定で 72 点の測定値を得た.
解析の結果,平均値 20,056μmol TE/L,標準偏差 824μmol TE/L,
変動係数 4.1%であり,室間試験の結果と比較すると,ORAC 値 がやや低く出る傾向にあった.(Fig.3)
Fig.3 ヘスペレチンの分析結果
全ての分析実施時に品質管理試料であるフェルラ酸を 2 点以 上分析することで,分析の信頼性を確認していることから,分析 自体に問題はないものと考えられる.また,標準偏差や変動係 数も特に異常値を示しているわけではない.真度と精度を計算 してみると,精度に関しては非常に高いことからも,分析操作 そのものに問題がある可能性は低く,今のところ ORAC 値が低く 出る決定的な原因については不明である.
H-ORAC 測定において,ヘスペレチンのようにだらだらと蛍光 強度が減少する挙動を示すタイプの化合物とフェルラ酸やカフ ェ酸のように蛍光強度が減少しない時間があり,その後,急激 に蛍光強度が減少する挙動を示す2つのタイプの化合物がある ことが確認されている.今回,フェルラ酸,カフェ酸について は,精度,再現性ともに充分満足できる結果が得られた一方,
ヘスペレチンについては再現性については問題なかったが,測 定値が低めに出るという結果となった.蛍光強度減少のパター ンの違いが,その原因となった可能性も考えられるので,今後,
ヘスペレチンタイプの化合物については,さらに検討を重ねる 必要がある.
ケルセチンについては,6 回の測定で 30 点の測定値を得た.
解析の結果,平均値 26,490μmol TE/L,標準偏差 1,347μmol TE/L,
変動係数 5.1%であり,精度,再現性ともに問題ないことが確 認できた.また,ケルセチンについては,蛍光強度減少の挙動 がフェルラ酸タイプを示したので,ORAC 値についても信頼でき るものと考えられる.(Fig.4)
Fig.4 ケルセチンの分析結果
カボス果汁については,5 回の測定で 21 点の測定値を得た.
解析の結果,平均値 6,137μmol TE/L,標準偏差 241μmol TE/L,
変動係数 3.9%であった.室間試験のミカンの ORAC 値と同程度 であることから,妥当な数値ではないかと考えられる.
(Fig.5)
3.1.2 マイクロプレートの各レーン毎の分析結果の解析 本分析に使用するプレートリーダーには機種に固有な特性が
Fig.5 カボス果汁の分析結果
あり,理由は不明であるが測定するレーンにより,ORAC 値が大 きくなったり小さくなった りすることがわかっている.また,
同一メーカーの機種を用いてもこの現象は起こり,ORAC 値が大 きくなったり小さく なったりするレーンは異なる.当センター の機器で,各レーン間の測定値にどの程度の変動があり,その 変動が許容できる範囲にあるか解析を行った.
フェルラ酸の各レーン毎の測定値の解析結果を Table 2,Fig.6 に示した.
Table 2 フェルラ酸の各レーン毎の測定値の解析結果
Fig.6 フェルラ酸の各レーン毎の測定値
一元配置分散分析の結果,P-値は 0.028 であった.有意水準を
レーン番号 平均値 標準偏差 変動係数 P-値
(μmol TE/L) (μmol TE /L) (%)
2 16,8 39 413.1 2.5
3 17,2 36 585.4 3.4
4 17,6 29 627.4 3.6
5 17,3 56 346.3 2.0
6 17,0 01 365.9 2.2
7 17,3 41 264.7 1.5
8 17,2 78 341.8 2.0
9 17,5 03 316.5 1.8
10 17,3 53 479.3 2.8
11 16,8 89 592.8 3.5
0.028
5%に設定した場合,統計的に有意となり,グループ間で 有意差 があることが示された.そのため,フェルラ酸についてはレー ン間で ORAC 値の平均値に有意な差があると 統計的に判断され る.
しかし,フェルラ酸の ORAC 値については,真度,精度ともに 問題はないことから,分析自体にも問題はないと考えられる.
フェルラ酸で有意差が出た理由は,分析の再現性が高いためで はないかと推測される.通常はレーン特異的な ORAC 値の変動よ り,分析手技による変動の方が大きくなり,有意な差は出ない のではないかと考えられる.
同様にカフェ酸,ヘスペレチンについての解析結果を,それ ぞれ Table 3,4,Fig.7,8 に示した.
P-値はそれぞれ 0.131,0.301 であった.有意水準を 5%に設定 した場合,グループ間に 有意差はなかった.
以上の結果より,レーン間の ORAC 値の変動は許容できる範囲 であることが確認された.
Table 3 カフェ酸の各レーン毎の測定値の解析結果
Fig.7 カフェ酸の各レーン毎の測定値
4. 今後の計画
フェルラ酸タイプの蛍光強度減少のパターンを示す化合物につ いては,当センターで H-ORAC 法による抗酸化能測定が可能となっ たことから,ヘスペレチンタイプの化合物について,ORAC 値が低 く出る原因を解明し,H-ORAC 分析法の評価体制の整備および評価 技術の確立を目指す.併せて,センター独自の分析手順書を作成
Table 4 ヘスペレチンの各レーン毎の測定値の解析結果
Fig.8 ヘスペレチンの各レーン毎の測定値
する.
DPPH 法について,分析の再現性や精度の検討を行い,ORAC 法を 補完する分析法として技術の確立を図っていく.
また,手順書では分析に用いる試料の,食品からの抽出法につ いては十分検討されていないので,試料調製法や抽出液の保存性 についての検討も加え,試料抽出から分析までの一連の操作が問 題なく実施できる体制を整備したいと考えている.
参考文献
(1)食品総合研究所他:H-ORAC 分析法標準作業手順(2013)
(2)九州沖縄農業研究センター:DPPHラジカル消去活性測定法
(2009)
(3)渡辺純,沖智之,竹林純,山崎光司,津志田藤二郎,食品の 抗酸化能測定法の統一化を目指して,化学と生物(2009)
(4)津志田藤二郎,標準となる抗酸化能測定法の選定と抗酸化指 標の表示について,食品と開発(2010)
(5)大脇進治,食品の抗酸化指標「ORAC」分析とその展望,食品 と開発(2010)
(6)山梨県工業技術センター研究報告:地域特産物の抗酸化力向 上に関する研究(2011)
(7)Watanabe et.al.,Analytical Sciences(2012)
レーン番号 平均値 標準偏差 変動係数 P-値
(μmol TE/L) (μmol TE /L) (%)
2 30,7 60 831.4 2.7
3 31,7 70 553.4 1.7
4 31,9 18 547.9 1.7
5 31,6 36 655.7 2.1
6 31,9 47 614.0 1.9
7 31,5 03 984.7 3.1
8 31,7 10 693.1 2.2
9 31,9 10 493.1 1.5
10 31,9 55 415.7 1.3
11 31,3 43 443.6 1.4
0.131
レーン番号 平均値 標準偏差 変動係数 P-値
(μmol TE/L) (μmol TE /L) (%)
2 19,6 76 976.3 5.0
3 20,0 05 942.5 4.7
4 20,2 26 864.3 4.3
5 19,6 43 882.6 4.5
6 20,1 36 938.3 4.7
7 19,5 02 801.8 4.1
8 20,3 22 780.1 3.8
9 20,3 99 805.5 3.9
10 20,4 84 428.7 2.1
11 20,1 67 530.6 2.6
0.301
酒類の成分分析に関する研究
後藤優治 ・松田みゆき ・佐野一成 ・江藤 勧 食品産業担当
Research of Analysis of the ingredient for liquor
Yuji GOTO, Miyuki MATSUDA, Kazunari SANO, Susumu ETO Food Industry Section
要 旨
酒類の微量成分に関する分析方法を検討した.香気成分については分析条件を決定し,県内酒造場の焼酎サ ンプルを用いてデータの蓄積を行った.また,得られたデータを用いて官能評価と相関するピークについて解析 を行った.その結果,官能評価と相関する成分は検出できなかったが,蒸留区分や製造所毎の特徴が認められた.
香味成分については,分析条件を検討した.焼酎での分析では再現性のあるデータの取得はできなかった.
蒸留区分や製造所毎の特徴については製造や品質の管理指標となる可能性が示唆された.
1. はじめに
麦焼酎,清酒などの酒類は当県の主要な産品であるが,
消費の下落傾向が止まらず,酒類業界を取り巻く環境は厳 しくなってきている.このような状況の中,醸造関連企業 においては新商品の開発や既存品の PR に取り組んでいる.
酒類の評価は官能試験によるところが大きいが,その他の 評価方法のひとつとして機器分析が挙げられる.官能試験 は人の感覚を用いた試験方法であり,感度が良く,嗜好品 である酒類の評価に適している.しかしながら,経験や体 調,個人の嗜好などに大きく影響を受ける.一方,機器分 析では各成分について比較や定量ができ,客観的な評価が でき,再現性も高い.そのため,酒類の評価方法として企 業からの問い合わせも多い.しかしながら,分析機器が高 価であるため,品質評価方法の 1 つとして導入している企 業は少数であり,センターでも焼酎以外の酒類については 分析実績が少ない.
そこで酒類に含まれる様々な成分をより多く分析する 方法を検討し,分析データを蓄積することで,酒質として 評価できる成分については,酒類の評価との関連を考察し,
そのほかの成分については酒質や製造条件との関連につ いて検討する必要があると考え.清酒及び焼酎の成分につ いて検討を行ったので報告する.
2. 方 法